不動産屋からの電話の後も歩き続けていた。「自宅に戻って調べて折り返す」とは言ったものの、不愉快な気持ちが収まらず、すぐには戻る気になれなかった。
しばらく歩いていると、また着信があった。
今度は町役場の担当者からだった。
「○○番の農地ですが、現状が山林ではないかという指摘があったんですが?」
「今外に出ていて、手元に資料がないので、はっきりとは言えませんが、杉の木が植わっていたところかと思います」
「現状が農地でないところは許可が出せません」
「先日の現地確認では何も問題指摘はなかったじゃないですか?」
「現地確認した人は、はっきりとはわからなかったようです」
「許可が出せないとなると、どうなるんですか?3月に引き渡しを予定しているので、それに間に合わなくなると困ります」
「どういう対応ができるか内部で相談してみます」
と言って電話が切れた。
ウォーキングどころではなくなった。すぐに自宅に取って返した。
自宅に戻ると、図面を取り出して指摘のあった土地を調べてみる。間違いない。杉の木が植わっていたところだった。以前は杉の苗を育てていたが、手が行き届かなくなり、いつの間にか大きくなっていった。杉の枝が落ちてきて邪魔だと隣地が言うので、数年前に全部伐採していた。伐採したものの、根元が残っていて「畑」ではなくなっていた。「公衆用道路」の方に関心が行って、ここも非農地に該当することに気付いていなかった。
町役場に電話した。まだ委員会は継続中のようで、担当者は席に戻っていなかった。伝言を頼んで折り返しの電話を待った。
正午を回った頃、役場の担当者から電話が入った。
「現況が山林になっている部分は、非農地の認定申請に追加して認定することになりました」
「どういうことでしょう?」
「譲渡の許可は、現況が山林の農地を除外して許可書を作成し、その分は非農地の認定に追加して認定書を作成します」
「申請書を差し替えなくてもいいということですか?」
「この申請書をもって対応します」
まさに神対応だった。
「ありがとうございます」
「これ以外にも現状が非農地になっているところがありますか?そこも非農地の認定を出します」
「それでは○○番の土地も追加してください。よろしくお願いします」
電話の向こうに向かって深々と頭を下げていた。