私の実家じまい

山も田んぼもある田舎の物件は売れるのか?そんな実家じまいに取り組んだ1年間の記録

3月10日 売買契約の締結

朝9時、不動産屋に関係者全員がそろった。

これで本当に実家を手放してしまうのかと思うと、少し緊張した。

そんな空気を察したのか、不動産屋さんは雑談から始めた。話題は、買い手さんが生業にしている林業のことだった。買い手さんは熊に遭遇したことがあるという体験談を披露した。不動産屋さんは、猟銃を持って山に入ったが、ウリ坊が撃てなかったという体験を語った。そんなことでいつの間にか20分が経過していた。

「それでは」と場が改められた。

「重要事項説明書の説明から始めます」

不動産屋さんが1頁目の冒頭から読みあげ始めたので、「何時間かけるつもり?」と不安になったが、すぐに要点だけの説明に切り替わった。

 

重要事項説明書の説明が終わると、唐突に不動産屋が言った。

「売買代金の支払いを先に済ませましょう」

契約書の押印もしていないのに、先に支払うって、ありか?

そう思ったが、買い手さんはさっさと支払う態勢に入った。カバンから封筒に入った現金を取り出して、不動産屋さんに渡す。すると、不動産屋さんはそれをテーブルの私の目の前に置いた。

「確認してください」

私と妻は一瞬躊躇したが、黙って数え始めることにした。

数分かかって数え終わった。

「間違いありません」

続いて媒介手数料を支払った。

不動産屋さんは「確かに」といって、領収書を差し出した。

固定資産税の分担の精算に移った。

金額が1円単位の端数になっていたので、「端数はいらないです」と言いかけたが、すでに領収書が用意されており、1円単位までぴったりで受け取った。

こうして売買契約書の締結より前に、すべての支払いが完了してしまった。

 

物件説明に移った。

住所変更と地目変更の登記が完了した証に、持参してきた登記完了証を二人にみせた。

すると不動産屋が

「わぁ、すごい!それ、全部ご自分でやられたんですか?」

「はい」と返すと、横から妻が

「元公務員ですから」

「どこの役所だったんですか?」

経済産業省です」と妻

「はぁ~!そうだったんですか」

「登記申請も趣味みたいなものですから」と妻

続けて「細かいことを言って嫌われてたんじゃないですか?」

不動産屋さんが

「いやぁ、大事なことですから」と半分嫌味で返してきた。