私の実家じまい

山も田んぼもある田舎の物件は売れるのか?そんな実家じまいに取り組んだ1年間の記録

6月2日 媒介の依頼

その不動産屋のたたずまいは、それらしくなかった。八百屋だった。店の入り口は自動ドアになっていた。そこを入ると、右手にレジ兼用のカウンターがあった。

そこに中年の女性が座っていた。

私が「不動産の件で来ました」というと、「ああっ」といって、奥の方に向かって言った。

「あなた!お客さん!」

右手奥の方には、事務机と応接用のソファーが置かれていた。不動産屋としてのスペースだった。そこから主人がにこやかに笑いながら出てきた。

「○○不動産の○○です」

 

私は、自分の名前を名乗った後、「実家を空き家バンクに登録したい。売却でも賃貸でもいい。仲介をお願いしたい」というようなことを言った。

主人は極めてご機嫌だった。そして自分の生い立ちから語り始めた。

大学を卒業し、広島市内で仕事をしていたが、地元の商店街が寂れていくのを見ていられなかった。空き店舗や空き家を活用して事業をやりたいという人たちがいる。その人たちのニーズをつなげるために宅建業の免許を取得し、地元に帰ってきた。

そのようなことを熱っぽく語った。

行政のやり方にも不満を持っていた。

「売れないと価格を下げていくやり方はだめだ。安く買うと、気に入らなくなると、簡単に出ていく。これでは空き家問題の解決にならない。値段を一度決めたら、下げてはだめだ。高く買うからこそ、我慢して住み続けようというものだ」

私はこの不動産屋に任せることにした。