その不動産屋のたたずまいは、それらしくなかった。八百屋だった。店の入り口は自動ドアになっていた。そこを入ると、右手にレジ兼用のカウンターがあった。
そこに中年の女性が座っていた。
私が「不動産の件で来ました」というと、「ああっ」といって、奥の方に向かって言った。
「あなた!お客さん!」
右手奥の方には、事務机と応接用のソファーが置かれていた。不動産屋としてのスペースだった。そこから主人がにこやかに笑いながら出てきた。
「○○不動産の○○です」
私は、自分の名前を名乗った後、「実家を空き家バンクに登録したい。売却でも賃貸でもいい。仲介をお願いしたい」というようなことを言った。
主人は極めてご機嫌だった。そして自分の生い立ちから語り始めた。
大学を卒業し、広島市内で仕事をしていたが、地元の商店街が寂れていくのを見ていられなかった。空き店舗や空き家を活用して事業をやりたいという人たちがいる。その人たちのニーズをつなげるために宅建業の免許を取得し、地元に帰ってきた。
そのようなことを熱っぽく語った。
行政のやり方にも不満を持っていた。
「売れないと価格を下げていくやり方はだめだ。安く買うと、気に入らなくなると、簡単に出ていく。これでは空き家問題の解決にならない。値段を一度決めたら、下げてはだめだ。高く買うからこそ、我慢して住み続けようというものだ」
私はこの不動産屋に任せることにした。