不動産屋さんが実家の下見にきた。
不動産屋さんの車が着くと、助手席から女の人が一人降りてきた。不動産屋の奥さんだった。奥さんが同行するとは聞いていなかった。
庭に立って実家の建物を見るなり奥さんは言った。
「わぁ~!いいですね。まだ新しそうだし、眺めもいい!」
遠くに青くなだらかに傾斜する山の稜線が見渡せた。
私は言った。
「ここの景色だけは気に入ってるんです。ここでレストランでもできるといいんですが」
「わぁ~!いいですねぇ!」
家の中に入ってもらった。
中を案内すると、「わぁ~広い!」とか、「わぁ~きれい!」とか、なぜか高評価の連発だった。
家具類はほとんど手付かずだった。仏壇もそのままだった。奥さんは言った。
「家具とかはそのまま置いていていいんじゃないですか?後に入る人が使うというかもしれないから。仏壇もそのままでいいですよ」
そんな会話の後、物件状況をざっと説明した。
「山林が10ヘクタール。農地が田畑あわせて1ヘクタールあります。これがまとまっていればいいんですが、バラバラに離れているんです」
「そうなんですか?」
「全部で50筆になります」
「そんなにあるんですか!
「ええ」
「移転登記を司法書士さんに依頼すると、手数料が1件2万円として100万円かかるので、その分を売買価格から値引く必要がありますね」
「どうして?」
「司法書士さんへの手数料は買主負担なので、その分が売買価格に上乗せになると、負担が大きくなるからですよ」
「売買契約が1本なのに、筆数で手数料をとるのは取り過ぎでしょう?」
「そういう習わしですから」
「それなら自分でやります。自分でできるとネットにも書いてありましたから」
「ご自分でされるんですか?」
「できるかどうかわかりませんが、まぁやってみます。それに分筆や合筆が複雑に入り組んでいるので、司法書士さんでも簡単には理解できないと思います」
こうして自分で移転登記することになってしまった。