空き家バンクに掲載された日の翌日、早速「売ってください」という人が現れた。
スマホに直接電話がかかってきた。
「もしもし。〇〇といいます。Hさんから番号を教えてもらいました。山を買いたいんです」
「えっ!山をですか?」
「はい。林業をやっていまして、山が欲しいんです」
「家も田んぼもあるんですが、そちらはいらないんですか?」
「それも一緒です」
「ありがとうございます」
「私が一番ですよね?」
「役場に申し込みがあったかどうか知らないので、何とも言えないですが」
「私が申し込み順位の一番と認めてほしいんですが」
「電話を一番にもらったという意味では間違いないです」
「よろしくお願いします」
なぜ「一番」にこだわるのか、よくわからなかった。
翌日、役場の担当者から連絡がきた。
電話をかけてきた人とは別に2件の申し込みが来ていた。1件目は市内に住んでいる30代の夫婦。会社勤めを辞めて田舎暮らしをしたいという。2件目も市内に住んでいる70代の夫婦で、老後をのんびりということだった。
どちらにするか決めてくださいと言われて、少し考える時間をもらった。
しかし、答えは明白だった。
広大な山や田畑の管理を安心して任せられるのは、山をくださいと言ってきた人しか考えられなかった。